HOME 会社案内 ケニア情報 アフリカ諸国 ツアー各種 撮影・取材 LINKS
ENGLISH お問合せ STAFF
『密造酒チャンガ』
遠藤喜孝
 酒はいとおしい。
 酒を飲むと、まずは楽しくなる。外で飲んだら、はしごは欠かさない。失敗はある。だが、後悔は無い。後悔はしないが、反省はする。人生に反省は必要だ。人生は酒があるから楽しい。
 そんな私が、酒の本当の面白さを知ったのは、アフリカに来てからだ。アフリカの地酒を飲んで、飲むことの楽しさを知った。中でも印象に残ったのは、中央アフリカからスーダンへ抜ける途中の山奥で立ち寄った部落で飲んだ酒。マニヨックと言う、山芋とサツマイモとゴボウを合わせて、3で割ったような白身の芋に、蜂蜜などを混ぜ合わせて作ったやつだ。においも味も、もちろんアルコール度も強烈の一語に尽きる。色は透明で、それを木で作ったコップに入れて飲む。周りが未開のジャングルという雰囲気にもよるのだろうが、このコップにこの酒あり!と言った絶品である。
 ケニアにも地酒と呼ばれる酒は無数にある。部族によって造る方法は全く異なる場合もあるし、地方によっても違ってくる。代表的なのが、ブサーというドブロクの一種だ。作り方を紹介すると、まず小麦粉に水を入れ、人間の太ももの硬さくらいになるまでこね合わせる。これをバナナの皮でくるんで、1時間ほど地中に置く。発酵したら、地中から取り出し、全体が乾燥するまで鍋に入れて火にかける。これで第一工程が終了だ。
 次にウィンビというヒエに似たものを粉にして、水と合わせる。固さはやはり人間の太ももぐらい。そして南京袋に入れ、上に石を載せ圧力をかける。1週間後、袋から取り出して太陽にあてて乾燥させる。これをウスでひいて再び粉にする。これで第2工程が終了。
 最後に第1工程と第2工程で出来上がったものを当分に混ぜ合わせ、水を多めに加え、日のあたる場所に1週間ほど放置する。時々かき混ぜたりしながら気長に待つと、いつしかどろどろ上になってくる。こうなったときがブサーの飲み頃という訳だ。材料を約10kg使ったとして、費用はおよそ200円ほどで出来あがる。
 味はちょっと酸っぱくて、少々粉っぽい。ナイロビの下町では、1〜2リットルぐらいのポリタンクに入ったブサーを、1リットル入りのコップで量り売りしてくれる。1リットル8円という安さだ。
 さて、この自家製ブサーを飲み終えるころになると陽気に沈殿物がたまってくる。この沈殿物に作りたてのブサーと水を加え、細いフィルターにかけて漉す。フィルターにかけられて出てくるよう液は水のように透き通っている。それに砂糖を加え、完全に溶け合わさるまで撹拌する。蓋をしてまたしても1週間ほど寝かせて発酵させる。
こうして出来上がったものをカメに入れて強火にかける。そして、カメの上には底に穴をあけたナベAをのせる。そのナベの中にひと回り小さいナベBを入れる。さらにナベAの上に、水を入れたナベCをのせる。こうすると、カメの中で熱せられた発酵物の蒸気がナベAの底の穴から上に昇り、一番上にのせたナベCの底を伝わって、ナベBの中にたまっていく。このたまった溶液がチャンガと呼ばれる飲み物となる。このチャンガは殆どアルコールといったシロモノで、コップ1杯飲んだら、目がつぶれるくらい強烈なものだ。
 ブサーは認可を受けているが、チャンガは製造を禁止されている。しかし、アルコール度が強いので、すぐ酔えるという利点があり、闇製造も盛んで、愛好者も結構いる。当然、体を壊す愛好者も後を絶たない。よく酔っ払って、そのまま路上で寝てしまい、朝になって冷たくなった体を発見されることもたびたびある。このため、時おり製造業者の摘発をやっているのだが、ポリスが来る前にみんな逃げてしまい、なかなか実績はあがらない。たまに秘密のバーなどの手入れの際に、酔っ払って、逃げ遅れたりするドジな奴が捕まったりする。
 こうした当局と闇製造業者のいたちごっこは、きっとこれからもずっとナイロビの下町名物として、繰り返されていくに違いない。それにしても、どちらも全くこりない奴らだと思う。でも、これこそがナイロビの下町なのだ。とにもかくにも喜劇仕立ての追いかけっこを楽しんでいるのだ。
 ナイロビだけでなく、各地方でもこれに似た酒をよく造っている。しかし、アルコール度数が強ければうまいかというと、そんな馬鹿なことは無いわけで、やはり酒は飲む相手や環境によって、うまくもなるし、まずくもなる。だから、チャンガがいくら酔っ払えるからといったって、私はとても怖くて手が出ない。たかが酒で命を落としていては、いくら体があっても足りはしない。
 それにしてもブサーといいチャンガといい、人間とは、どこへ行っても酒の造り方を発見してしまうのだから愉快だ。近頃はブサーよりもビールが好物といった近代的なマサイもいるが、ま、いずれにしたって酒の面白さには変わりはない。
 ホワホワと人生が楽しくなるくらいの酒を飲みたくなったら、アフリカに来なさい。ここはいつでも極楽ビートで酔いまくる土地なのだから。